Lee Child (2009) Gone Tomorrow

Lee Child (2009) Gone Tomorrow. (Transworld Publishers Bantam edition, 2010, 542 pp.) 2010年7月18日
☆☆☆☆


たごはこの3月に引っ越しました。会社にぐんと近くなってとても幸せなのですが、電車や地下鉄に乗る機会がなくなって、一気に読書量が落ちました。しかも引っ越したあともときどき遠回りして通っていた行きつけのアイリッシュ・パブが6月に突然閉店してしまい、これは大ショックでした。もう年だし、家で大人しく読書していなさい、ということなのでしょうか。引っ越してお小遣いも厳しくなってきたし…

ということで、1年ぶりのリー・チャイルド、最新作 Gone Tomorrow です。

今回の舞台はニューヨーク。ジャック・リーチャー・シリーズの魅力の一つが、その書き出しです。1冊ごとにすべて異なる書き出し、数ページの気の利いたプロローグで始まります。ところが、今回はそのプロローグがないのです。そうか、なるほど、今度はこう来たか、と思ったところがどうして、そのプロローグと思ったものが延々と続きます。プロローグでなくて第1章でした。そのまま物語が始まります。

深夜、日付も変わったニューヨーク。地下鉄6号線北行き、がらがらの車両に載ったリーチャーは、まさに自爆テロの準備を調え、あとはバッグの中のスイッチを押すだけと見える中年の女性に気づく。彼女はイスラエル情報部が作成した11箇条からなる犯行直前の自爆テロリストのプロファイリング・リスト女性版のすべての項目に適合していた。リーチャーは立ち上がり、彼女の前にいく。そして彼女を説得し、犯行をやめさせようとする。しかし彼女は、鞄の中に右手を突っ込んだまま、起爆装置を渡せという彼の説得に応じようとはしない。

互いににらみ合ったまま凍り付くような時間が過ぎたあと、彼女が鞄の中から取りだしたのは、起爆装置ではなく、古い357口径ルーガー拳銃だった。彼女は自分の顎の下に銃口を当てると、リーチャーが制止する間もなく、引き金を引く。テロリストのプロフィールに適合する特徴と思われたのは、自殺志望者の示す兆候だった。リーチャーの眼前で、1人の女性が自分の頭に大口径の銃弾を撃ち込んだのだった。

リーチャーは事件の目撃者として警察 ― 西35丁目のミッド・タウン・サウス署、ちなみにマット・スカダー・シリーズ登場のジョー・ダーキン刑事のミッド・タウン・ノース署は西54丁目にあるようです ― に連れて行かれる。そしてリーチャーは事情を聞かれたあとも、何故かそのまま警察署に留め置かれ、明け方近く急遽ワシントンからやってきた身分を明らかにしようとしない3人組の捜査官の尋問を受ける。そして自殺した女性が Lila Hoth という名前を口にしなかったか、さらに彼女から何か受け取っていないかどうかを訊ねられる。リーチャーに心当たりはなかった。なぜそんなことを訊かれるのかも分からなかった。

朝になってリーチャーはいわば「釈放」された形で警察を出る。担当の女性刑事 Theresa Lee の言葉 "I think you tipped her over the edge." (p. 85) 「あなたが最後の一押しをしてあげたのよね」がリーチャーの心に引っかかる。果たして自分は彼女に引き金を引かせる直接の原因となったのだろうか。自分が余計な口を出さなければ、彼女はいまもまだ生きていたのだろうか。

警察を出た彼はすぐに4人組の男に接触される。そして今度は彼女が Lila Hoth の名だけでなく、John Sansom という人物の名を口にしなかったかどうかを訊ねられる。

さらにその後、今度は自殺した女性の兄、ニュージャージーの小さな町で警察官をしているという Jacob Mark が声をかけてきた。自殺した女性は Susan Mark、ペンタゴンの人事関係の部局で働いていた。しかしそれは単なる管理部門以上の何ものでもなく、誰かを自殺へと追い込むような国防上の秘密を扱う部局ではなかった。離婚した夫と息子はカリフォルニアに住んでいて、息子の Peter は南カリフォルニア大学のフットボール選手だった。

ジョン・サンソムとは誰か、ライラ・ホースとは誰か、彼らはスーザンの死とどのように結びつくのか、スーザンの死は彼女が仕事上知り得た「秘密」と関係あるのだろうか、彼女は自分が得た情報を誰かに売っていたのだろうか、そして地下鉄で自分が声をかけたことが最終的に彼女を死へと追いやったのだろうか? こうしてリーチャーはスーザンの死の真相を求めて、ニューヨークの町を遊弋しながら、独自の捜査を始める。

ジョン・サンソムはノース・カロライナ選出の下院議員で、現在上院の議席を目指して選挙運動中だった。彼はかつて陸軍の特殊部隊で勤務した元軍人で、デルタ・フォースでの公表されない任務でたてた功績で4つの勲章を得ていた。その任務がスーザンの死と関係があるのだろうか。リーチャーはそれを確かめるためにサンソムに会う。

一方のライラ・ホースはウクライナ出身で百万長者の未亡人、現在はロンドン在住の若い女性で、母親の Svetlana と一緒に、ニューヨークに滞在していることが分かる。2人は、かつてソヴェト陸軍の政治将校だったスヴェトラーナが冷戦下のベルリンで知り合い、世話になった米軍の将校、姓不詳で John としか名の分からない人物と再会することを求めて、アメリカに来たと言う。そのためにライラはスーザンと連絡を取り合い会う約束もしていたこと、そのスーザンが突然自殺したことを知り困惑していることを話す。

こうしてリーチャーは、誰が敵で誰が味方なのか、誰が真実を語り誰が嘘をついているのか分からないまま、手探り状態で「捜査」を始める。そして次第に、嘘をついている人物と真実のすべてを語ってはいない人物の区別、敵である人物と敵ではない人物の区別がつき始める。そして政府の保安関係の部局が、彼の捜査を邪魔し、つぶすために本気で襲いかかってくるなかで、彼は自らを囮に、一歩一歩、真の敵に迫っていく。

迫っていくのだけれど、そしてその過程でいつも通りリーチャーは十分に身体を張り、もう文字通りゴリラなみの活躍もするのですが、それでも今回のリーチャーはいつものリーチャーに比べると、なんとなく身体の張り具合いが少ないような気がしてなりません。どうも頭脳プレイに頼っているような気がしないでもない。(といっても、これはあくまでも「当社比」じゃなかった、「当人比」です。他の探偵さん、アクションものヒーローに比べると十分すぎるほどに身体を張っています)。

事件の翌朝、警察を出たすぐ後に、スーザンの兄ジェイコブと2人、コーヒーショップでコーヒーを飲みながら、ブレーン・ストーミングのように事件をさまざまな角度から検討し分析していくと、それだけでもう、つまり手持ちの材料だけで、いろいろな事実が分かってしまいます。そして今回のリーチャーは、こういった推理、合理的な推定、推測がことごとく当たってしまいます。広いニューヨークの町を徒歩で、そして地下鉄で彷徨い歩き、ときに全力疾走するのは、政府から送られてきた捜査官の手を逃れるためで、敵を発見し攻撃をかける方の仕事は、非常に効率的に進められます。

ということで、全542頁の大半が、リーチャーはもっぱら政府の手を逃れるためにエネルギーを使っているような印象で、それはまあ確かに、一瞬のうちに相手を無力化する瞬発力、スピード、そして判断力はいつも通りなのですが、それでもやはり政府の捜査官相手だと、おのずとリーチャーの行動にも節度、限界、手加減が生じてしまうみたいで、面白くない。自分から攻撃をかけて完全に無力化してしまうなんてことはできません。逃げざるを得ません。贅沢を言うとその点でもうひとつです。

というわけで、もちろんいつも通りの面白さではあったのだけれど、その一方で、どうしても1年ぶりのリーチャーに期待してしまうというところもあって、その反作用でしょうか、読んでいる途中、う~ん残念、これは☆3つ、いやひょっとしたら☆2つだろうかという気にもなりました。しかし、最後の50頁余でその予測は見事に覆されます。正確にはその50頁中の後半部30頁強、さらに厳密に言えばそのうちの20頁ほどで印象はがらりと変わります。(ちなみに最後の10頁はエピローグなので、それを除くと正味10頁です!) やっぱりリーチャー、残忍で容赦ない敵と死力を尽くして戦い、絶対絶命の危機を迎えながらも、最後はいつも通りごくあっさりと、その敵以上に容赦なく振る舞ってみせます。多少おまけですが☆4つにしてしまいます。

ところで、たごは一度もアメリカ行ったことがありません。ニューヨークどころか西海岸も、いやそれどころかハワイも行ったことないです。そんなたごでもこの物語を十分に楽しめたのはグーグル様のお陰です。物語の重要な舞台の一つとなる場所は、東57丁目と58丁目、パーク街とマディソン街に囲まれたブロックにあるホテル・フォー・シーズンズです。そして58番街側にあるこのホテルの裏口を基点に、リーチャーは自らの推理に従って、敵のアジトを捜していくのです。そんなとき、読んでいて、精確な地図がないとまったく話が分からない。リーチャーの推論の道筋が分かりません。ところがグーグル様の詳細な地図と、さらにストリート・ビューがあると、もうビルの高さなんかも分かってしまって、まあ犯人のアジトと名指しされたビルの持ち主には迷惑な話であったろうと思いますが、読者としては臨場感満点、面白さばっちしです。ああ、それでも、いつかやっぱしニューヨークいってみたい…



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